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カルボナーラと卵かけパスタ

想い起こせば、この47歳にして、そもそも自分はカルボナーラという食べ物をこれまでに何回くらい作っては食べているのだろうか。

もともと、料理の「りょ」の字も知らなかった学生時代から、これだけは自分で作って食べていたから、その数は相当だと思われる。なぜ当時、他の料理はしないのに唯一カルボナーラだけは作っていたかというと、それはきっと漫画『美味しんぼ』の影響と(すごくねっとり美味しそうなやつを作る話があった)その材料すべてが近所のコンビニで手に入ったからだろう。更に、とにかく素早くできるし、お腹にも溜まるし、若きホルモンを満たすのにぴったりだったからでしょう。おそらく。たぶん。

もちろん今でもよく作っています。特に最近は休日の朝っぱらから子どもたちのリクエストに上がる事が多い。それを人に言うとたまに「は? 朝からカルボナーラですか。ずいぶんどっかりですね」みたいに言われることも多いのだけど、自分が今作るカルボナーラは卵とベーコンのみ。これはもうカルボナーラと呼ぶよりも・・・そう、ほとんど卵かけご飯の感覚に近いんじゃなかろうかと想うのです。

だからでしょう。ほっかほかのそれが目の前に出来上がると、思わずどうしてもそこにお醤油をつらりと垂らしそうになる。のを必死で堪える自分がいるのです。堪えなくていいような気もするけど、やっぱりそこは堪えるのです。たぶん垂らしたらば、そうはもう途端に卵かけご飯めいて美味しくなるはずだと想像するのだけど、その禁を破ってしまうと遥か遠くのイタリアのフィレンツェ辺りから見ているパスタの神様に怒られるような気がするし、何よりも子どもの教育によろしくない気がするのです。

例えば、ですね。彼らが大人になって彼女か彼氏と一緒に住むようになって、相手が「今日はカルボナーラを作るよ」というとします。そしてあっという間にそれが出来上がり、二人して「いただきまーす」と言ったそのすぐそばから、彼らがそのカルボナーラにお醤油をつらりと垂らしたらば、果たしてその場はどうなるでしょうか。多分、二人は大喧嘩になってそれが原因で悲しくも破局を迎えてしまうはずです。「うちの家庭ではそうしていたんだよ!カルボナーラにお醤油をかける家だったんだ。いや、ほんとに美味しいんだってば」と言ってもそれは決して道理が通りません。パスタの神にも怒られるし、その場の雰囲気も関係もぶち壊し。僕だって、彼らにそんな人間になってほしくはない。だからお醤油つらりはあくまで踏みとどまるのです。

うん、まぁそんな話はいいとして、今ではカルボナーラのレシピも相当に進化したというか、小煩くなったというか、このコロナの状況もあって、YouTubeだかでカルボナーラと検索すると有名シェフが究極のカルボナーラとか言って極秘のレシピを開陳していたり、やたらめたらうるさい。そういうのももちろん楽しいから僕も一時期参考にしていたりしたけども、そもそも自分にとってのそれは卵かけご飯なんだから、めんどくさいのはもうすべて止めてしまった。別段ベーコンにも凝らないし、生クリームも、なんならバターさえも使わない。つまりこれはもうカルボナーラとは呼べない、言ってみれば卵かけパスタというべきか。でもそれでいいんです。

こんなところに書くのも憚れるけども、どこかの誰かが喜ぶかもしれないから、その作り方をこっそり書いておくことにします。

まずはパスタを塩で普通に茹でる。その横でベーコンをオリーブオイルで炒める。・・・と、みんなここでカリカリが大前提のようだけど、果たしてほんとにそうだろうか。と、いつも僕は想う。「ベーコン=カリカリ」という、かつてのアメリカンドリームな幻想に騙されているのではないだろうか。特にコンビニの「ベーコンのような薄い何か」を使う場合は短冊に切ってカリカリまでしてしまうと、それはもはやただの燃えカスのようになってしまう。だから、個人的にはしっとりとしたくらいの感じ、でも油はきちんと出ている状態、くらいがいいと思うのですけどね。まぁそこはただの好みでしたね。すみません。

冷蔵庫から卵を出してボウルに割ってかき混ぜておく。ここでの麺の量と卵の量がこの食べ物のすべてであり、黄金比だと思うのだけど、残念ながらそれはまだ僕にもわかっていません。まぁ目安としてパスタの麺が200グラムとして卵4つくらいでしょうか。全卵とか黄身だけとか色々あるけど、僕は全卵+黄身というパターンが多い。全卵3、4に黄身だけ1つとか。もちろん黄身が多ければ多いほど味わいは濃厚になります。その辺の塩梅を毎回試しながら、自分の黄金比を探すのも、この料理を飽きない点だと思うのですが。

ここでパスタが茹で上がるまでに何をしているか。僕は音楽を聴いていることが多いです。それもパスタを作っている時はできれば穏やかな音楽がいい。なぜだろう、この後の作業があっという間のスピード勝負だからか、却って落ち着いていたいのかもしれない。今の季節だったら、キングス・オブ・コンビニエンスの音楽だとか。チェット・ベイカーの歌だとか。やっぱりジム・ホールのギターだとか。ああ、レゲエのホレス・アンディの声もいいかもしれません。とにかくカームな心持ちになれるものがいいんです。できればあの大谷翔平がバッターボックスに立つ時ぐらいのカーム具合、きっと気持ちは果てしなく穏やかで、しかしながらそのハートはあっつ熱くらいの心持ちでいたい。あくまで想像ですが。

麺が茹で上がったらザルにあける。そのザルの下にパスタを盛る皿を置いて、茹で汁を捨てることと皿を温めるおまじないを同時に自分はいつもやっているのだけど、あれは本当に意味があるんだろうか。いまだによくわかりません。・・・ええと、なんだっけ。ああそうだ。こうしちゃおれない。急がないと。茹で上がった麺をこれまでパスタを茹でていた空になった鍋に戻す。もちろんまだ鍋はかちんこちんに熱いですよね。そこに炒めていたベーコンを油ごとかける。そのすぐそばから溶いた卵を流し込んで、菜箸だかヘラだかでひたすら一心不乱猛烈にかき混ぜる。ねっとりとなったら皿に即座に盛って、黒胡椒をガリガリして、はい、おしまい。

どうです。簡単でしょう。そうでしょうそうでしょう。バターが好きなら茹で上がった麺に落とせばいいし、そりゃもしパルメザンチーズなんてものが冷蔵庫にあったらそこに振ればいい。でもまぁベーコンとパスタを茹でる塩で十分だと思うんだけど。もうなんだかエロいくらいにねっとりウットリ仕上がれば大成功、ボソボソと卵が固まってしまったら残念ですがまた近いうちにトライ。

なにしろこの料理の素晴らしい点は簡単でシンプルなこと。パスタの麺が茹で上がる時間内ですべてができてしまうのだから、こんなに素晴らしいことはないし、だからこそ、あまり時間をかけたくない朝やお昼に最適。そして食べるのにも4、5分もかからない。というかそうしないと卵が徐々に固まるし、冷めると一気に美味しくなくなるから、ズバズバずるずると一気に食べるのが完全鉄則です。だからうちでは子どもたちが食べるのが遅いと、父の(つまりは僕の)怒号が飛ぶことになっています。「おらぁ、はやくたべんか!」。

ちなみに写真のお皿は現在当店で展示会中の『阿蘇坊窯』のインディゴプレート。それはまるでどこぞのジーンズのごとくコーディネートしやすく、どんな料理にも合わせやすくておすすめです。・・・と最後に店の宣伝で終えてしまう、いかにもブログ的な文章でありました。あしからず。

中村 慎vertigo店主

熊本の白川公園の裏っかわ、満月ビルの3Fで『vertigo(ヴァーティゴ)』という雑貨店をしています。

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