ブログ

彼女が初めて買ったレコード

最近、妻がレコードにハマり出しまして。ええ、もうなんだか突然なんですが。

ある日、仕事を終えてうちに帰ってきたら、あの・・・なんていうんですか。・・・タンテ? でしたっけ。そうそう、ターンテーブルの略ですよね。つまりはレコードプレーヤー。あれがうちにあるんですよ。そりゃ驚きますよ。

確かこないだまではBTSにハマってた気がするんですが、とにかく彼女は昔から飽きっぽいんですよね。もう学生時代からの長い付き合いなので、その辺、私もよおくわかってはいますが。

なにせ彼女の職場が家電量販店なので、それも少しは関係があるのかな、と。ええ、パートなんですけど。でも聞いたら仕事はなかなか楽しそうですよ。家電ってとにかく進歩が速いし、知れば知るほど奥深いし、どの家電も生活に根付いているから勉強になるそうです。今じゃ友人達に家電のプチ知識を広げるのがえらく楽しみなようで。

私は一応、大学で教えてはいますけどね。ええ、まぁ文化人類学という分野です。でもね、大学の教授と言っても、今はいろいろあって厳しいんですよ。みなさんあんまりご存知無いみたいですけど。まぁその辺の話はここではいいです(と静かに笑う)。

・・・え? 私ですか。いやいや。私は音楽を聴く趣味は元からありません。そもそもそういう耳を持っていない気がするんです。なんでみなさんわざわざ音楽なんてものを聴くのかなぁと常日頃から思っている方の人間です。だからコンビニでかかる音楽が嫌で嫌でしょうがないんです。そういう人、あんまりいないのかなぁ。

というのは、いつだってどこだって、音というのは実はどこにでもあるものなんですよ。鳴っているものなんです。そう思って、一度耳をどこかに傾けてみたらいい。人が通れば歩く音がするし、車が通ればタイヤが道を蹴る音がはっきりとする。そうしてスニーカーで歩く音と、ブーツで歩く音はまったく違うし、なんならせっかちな人と穏やかな人の足音はそれぞれ違います。それと同じように、というべきか、ボルボXC90と日産マーチGの走る脚音はまったくもって違うんです。どちらかというと、音楽よりもそういう音の違いやグラデーションの方が私は気になるし、楽しいんです。

いや、無音だって音は鳴っているとも言えますからね。空調だってよく聞けばそれぞれ固有のノイズがありますし・・・ああ、ほら、ブラジルの音楽家でしたっけ。ジョアン・ジルベルトという人が日本でコンサートをやった時、暑い季節だったのに空調を消させたのは有名な話じゃないですか。でもあれは一説によると実は自らのデリケートな声帯を保つためだったらしいですけどね。・・・ええ。音楽は聴かないくせにそんな話ばかりはたくさん知っているんですよ。イヤな感じでしょう?(とまた静かに笑う)

ああ、そうそう。妻のレコードの話でした。

もちろん彼女はプレーヤーだけじゃなくて、レコードも買ってきたんですよ。どっかから。なぜこれを最初に選んだのかはまだ聞いてませんけどもね。なんでなんでしょうね。『パリ、テキサス』。映画のサウンドトラックみたいですね。いや、私はこの映画は観たことが無いんですけども。ジャケットに映った女性、美しいですね。私もいつか観てみたいと思ってます。

・・・ああ、レコードもね、聴きましたよ。これは私も好きだと思います。生まれて初めて音楽をいいと思ったかもしれない。映画の音楽だからか、なんだか空気を丸ごとパックした感じがありますよね。さっき言ったような、空調のノイズみたいなものが一緒にパックされている感じといいますか。映画のワンシーンもサントラに入っているからかな。とかくなんだか妙に生活に馴染むんですよね。ふむ。ライ・クーダーという人ですか。有名な方なんですね。・・・え? いやいや。私はこれからもレコードなんてものは買いませんよ。外から聞こえてくる音を楽しむだけで満足ですから。

・・・

これは僕の知り合いの、そのまた知り合いから聞いた不思議な話だ。

それにしても、いったいなんで彼女はこのレコードを初めて買ったのだろう。それがどうしても気になるのだけど、でもその理由は聞かない方がいいのかも知れない。

このすべての話を今回の『レコードとお茶』の日に捧げようと思う。はたして彼女は来てくれるだろうか。

・・・

レコードとお茶。 迷える人たちへのscene.1

レコードのことが気になるけれど、何から揃えればいいのかまったくもってわからない。そんな迷える人たちのため、楽しくもおぼろげな応えと導きをともに探してゆく一日。レコードとレコードプレーヤーの選び方や扱い方、あるいはメンテナンスの仕方などなど。生徒役である日月茶会主宰の木本智子さんのお茶と、この日のために創られた限定の“レコードな”お菓子、そしてそこに流れゆくいくつかのレコードとたゆたう音楽与太話。当日は指南役のひとりでもある『Know Your Rights Records』店主のおすすめレコードも販売します。

指南役
殖木和則(Know Your Rights Records店主)
中村 慎(vertigo店主)

生徒役
木本智子(日月茶会主宰)

日程:2月6日(日)
会費:2800円(税込)※お茶、限定の“レコードな”お菓子付き
開始:11時~、15時~の2回
定員:それぞれ先着10名ずつ
お問い合わせ:muvertigo13@gmail.com、096-288-3659、インスタグラムやFacebookのメッセージにて。または日月茶会、Know Your Rights Recordsにても受け付けます。

※それぞれ本当に残りわずかです。

中村 慎vertigo店主

熊本の白川公園の裏っかわ、満月ビルの3Fで『vertigo(ヴァーティゴ)』という雑貨店をしています。

このライターの記事を
もっと見る

LOADING