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少しずつ育つ服

家庭科は玉止めでつまづいた。
ひとには向き不向きがある、ということをうっすらと気がつくきっかけだった気がする。
大人になってももちろん急に器用になることはなく、外れたボタンをつけるのすら億劫なまま月日が過ぎた。

little hairのじゅんこさんと出会って多分8−9年ほどになる。
熊本に越してきて彼女の元でしか髪を切ったことがないので、自分でも認識していなかったけれど、そんなに月日が流れていた。その美容室の隣りに旦那さんがオーナーをされている古着屋さんのlittle vintageがある。


何に対しても時間がかかる性分なのかもしれない。
会った瞬間に「好きだ」と反応して数回しか会っていなくとも定期的な連絡を取る友人もいるけれど、基本的には時間はかけるつもりはなくとも、結果的に時間がかかって、なんだかあれよあれよと最後は階段を転げ落ちるように親しみの念をもつようになる人の方が多い。と言っても仕事以外では人見知りなので、後者も数えるほどしかいないのだけれど。

通う度にlittle vintageの看板に「洋服お悩み相談所」と書いてある文字を目で追い続けて早数年。やっと数ヶ月前にその扉を叩いた。紐がとれたワンピース、破けたお気に入りのエプロン、終いには古い椅子の張り替えまで。その扉をノックしたその日から、月に一度美容室に通いながら、何かしらを持ち込み、そして持ち帰る日々が始まった。

蘇った古い椅子。手元にある生地から選ばせてもらい、座面を張り替えてもらった。椅子も新しく息をする。

お直しされた服は不思議だけれど、元に戻るのではない。
服は少しずつ自分の、自分だけの服になっていくのだな。
服も、家具も、本来私の手の届くところにあるものは私と共に少しずつ育っていく。
少しずつ、小さな、でも確かな一歩。
今は頂き物の大切な服をばらして、エプロンにしてもらっている。
仕上がりが今からとても愉しみ。

現在”バリアフリーアートギャラリーをつくる”べく、little vintageはクラウドファインディングに挑戦されています。
小さな、大きな一歩。
歩みを止めない皆さんのこと、本当にいつも尊敬してます。
ご興味ある方は是非以下リンクより。
https://camp-fire.jp/projects/531044/preview?token=26mh0nf6

平山千晶

料理家・細川亜衣の主宰するtaishojiに勤務。 街中から車で15分ほどとは思えない静かで自然豊かな場所にあるtaishojiでの日々は発見の連続。

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